
『鎌倉幕府と室町幕府』
山田徹・谷口雄太・木下竜馬・川口成人著 光文社新書
2022年 860円
けっこうベタなタイトルの本だが、その両幕府についての研究史で押して押して押しまくってくるなかなかマッチョな内容だ。程度の差こそあれ、一般読者向けの本でも論拠が求められる度合いが高まっている最近の傾向に応えるものだと感じる。一方で、SNSなどの場では一般人でも研究内容批判をする時代になっていることに対して、せめて関係するところくらい目を通しておいてくれという研究者側からの要求とも言えそうだ。
鎌倉幕府が北条氏による見事な傀儡政権になったのに対して、室町幕府は将軍-家宰-管領の関係が際どく傀儡化を防いだのかもしれない。本書とは関係ないが、鎌倉公方足利成氏が関東管領上杉憲忠を誅殺して享徳の乱を起こしたのは、家宰長尾氏のコントロール下に置かれてしまった憲忠を切り捨てることで長尾氏の強大化、引いては鎌倉公方の弱体化への芽を摘むことを優先させる意図によるものだったのではないかと感じる。ただ皮肉にも、28年にも及ぶ戦乱は、公方も長尾氏も上杉氏をも弱体化させ、戦国時代への扉を開いてしまっう結果になった。
鎌倉時代の守護はその権力を行使できる範囲が限定的だった件は、小田氏を考えるとわかる感じがする。また室町時代の守護については目から鱗だ。一部の境界となる国を除くと守護は各国にいたわけではないようだ。鎌倉時代はどうだったのだろうか。おまけに守護大名の用語もいまや昔のことになったとある。
鎌倉幕府が絶頂期を過ぎた安定期に突然滅亡してしまった理由はよくわからないというのが現時点での結論というのはおもしろい。対して、室町幕府については、応仁・文明の乱の後の戦国時代100年間をなぜ存続し続けられたのかの議論を経たのちに、なぜ滅んだのかの議論への流れが明確になったと評価している。
本書はコンパクトながら、関連分野の他の書籍を読む場合にその著者や展開する論が研究史の中でどのように位置付けされているのかを見通しよく示してくれるのではあるが、他方で、過去に積み上げられてきた研究を真面目に辿ろうとするとその膨大さに立ち往生してしまいそうでもある。