
『鄙の御所』 北見輝平著 さきたま出版社 2019年 1500円
『関東足利氏の歴史第5巻 足利成氏とその時代』、『中世関東武士の研究第33巻 足利成氏』、『古河公方の新研究第1巻 足利成氏・政氏』(全て戎光祥出版刊)と、ここ数年の間に足利成氏の関連の書籍が立て続けに刊行され、いよいよ研究が活況を呈し始めている。とは言え、素顔を写す肖像画はなく、発給文書以外に人物像を描き出す記録もほとんどないため、リアルな成氏の姿を思い描くのは難しそうである。それ故にと言うべきかもしれないが、引きずられる史料や記録が無いが故に、創作によって成氏像を作ると言う自由は広く残されていると思うので、どのような足利成氏像を見せてもらえるのかに期待をしつつ本作品を読んでみた。
期待をしたというのも、ちょうど今現在、これまで具体的な人物像が描かれたことのなかった人物に初めてイメージが与えられた瞬間を、『鎌倉殿の13人』の八田知家の登場で衝撃的に味わっている最中だということが理由の一つではある。本作品での足利成氏はどうかというと、彼の周囲を取り巻く家臣らは生き生きと個性的に描かれているのに比べて、成氏自身の輪郭は相変わらず朧げのままという点が残念に感じられた。酒宴では成氏の度量の大きさが強調される割に、それ以外の性格がのっぺりとして立体感がない。また、戦場場面での緊迫感も感じられず、特に、28年間に及ぶ享徳の乱を成氏は何のために戦っているんだという彼の人生のテーマ、そこが伝わってこなかったのは最も残念な点であった。