33年の時間を巻き戻し天文少年ならぬ天文壮年へ再入門。隊員1名、200mm、65mmの望遠鏡と双眼鏡で星空を楽しんでいます!
『私の新彗星発見記』
2013-08-31 Sat 00:00
最近知人から、免許皆伝のご褒美?として表題の書籍をいただいた。何の免許皆伝かはここでは内緒。

1307252.jpg『私の新彗星発見記』 天文ガイド編集部編
             誠文堂新光社 1300円 1979年

本書は彗星発見者が発見当時を振り返って書き下ろした手記で構成されている(ただし、一部は過去のものあり)。登場するのは時代の古い順に、山崎正光、下保茂、岡林滋樹(本田実氏の文)、本田実、関勉、池谷薫、多胡昭彦、伊藤勝司、佐藤安男、山本博文、大道卓、阿部修、小島信久、鳥羽健次、三枝義一、鈴木繁道、森敬明、小林徹、池村俊彦、羽根田利夫の各氏。彗星発見年で言えば1928年から1978年の50年間に渡る。

どの人のエピソードにもドラマがあるが、多くに共通しているのは発見時の天候の悪さで、その夜のうちに確実な移動を確認できないために東京天文台への連絡を躊躇し数日を虚しく過ごすことも多かったようだ。それでも第一発見者になれた古き良き時代であったとも言える。また、機材のカスタマイズも凄い。現在の様に多くの情報が流れる時代ではなかったので、オリジナルな発想と工夫がたくさん盛り込まれている。記録手段も大きく違っていた。的確なスケッチ力は発見の証拠のために必須要件だったと言える。

三枝義一氏は手記を次の様な、静かなそれでいてこころに染み入る文章で書き始めている。
 今朝もまた、捜索鏡を振り回していました。いつものように、何千回目かの
 星雲が視野に入って来ました。しかし、それは星雲ではなかったのです。そ
 れは、わたしの知らない彗星だったのです。1975kを発見した時の模様は、
 たったこれだけのことでした。たったこれだけのことに長い年月がかかりま
 した。(「少年の日の夢を追って」より一部抜粋)
彗星発見者となりえた数少ない人たちだけが到達できる一つの境地だと思う。

当時彗星捜索の舞台で活躍された中には生活の変化で捜索活動から離れた人もいるだろうし、その後プロのサーベイとの競争が激しくなったのを機に他の対象へ移った人もいるだろう。また、捜索への情熱そのものを失われた人もいるはずだ。一人の人生で考えればむしろそれが自然なことと私には感じられる。しかし、ある人の彗星捜索活動は途切れても、その情熱を他の誰かが受け継いでしまうこともある。そうして今に至るまで営々と、一日また一日と地道な一歩を歩む人の姿が見えて来る。コメットハンターたちはこういわれる事を好まないとは思うが、やはりどこかストイックで、彼らの中に求道者の姿を垣間見るのは私だけではないと思う。

2007年7月号以降『月刊天文ガイド』に掲載されたえびなみつる氏によるインタビュー記事を再編集した『新彗星発見に挑む』という本が2011年春に同出版社から発行されているのが記憶に新しいと思うが、本書はその原型と言える。
別窓 | 星の本 | コメント:8
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この記事のコメント
懐かしい本ですね。小林徹氏がカッコ良かったですね。
「本田実」ですね。藤川繁久氏は出ていませんでしたか。

 かつては、日本人による同夜の独立発見の連発というのが特徴的によくあって、しかも、それが、観測地が東から順になっていることもありました。
2013-08-31 Sat 12:06 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
ぼくは羽根田利夫さんのエピソードが好きで好きで、そこだけ何度もすり切れるほど読み返してましたっけ(笑)。

彗星に限らず、なにかの発見に人間ドラマを期待してしまうのは自分だけでないと思いますが、彗星眼視発見のこんな書籍はもう期待出来ない時代になってしまったのが残念です。
2013-08-31 Sat 18:45 | URL | 名無しの権兵衛 #chDfx1pU[ 内容変更]
S.Uさん

ご指摘ありがとうございます。

名無しの権兵衛さん

本書を読むと、お気に入りのエピソードを見つけられそうですね。以前、やまのんさんが羽根田-カンボス彗星発見の地を記事にしていて、なかなか良い内容でしたが、本書を読んでさらに感慨が深まりました。
http://kanotuno.at.webry.info/201103/article_2.html
2013-08-31 Sat 19:55 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
名無しの権兵衛>みゃおでした。失礼しました。クッキーキャッシュをクリアしたのを忘れて、そのまま投稿してしまいました。

S.Uさんの「東から西」は、池谷・関彗星が有名(10分差でしたっけ?)ですが、他に何がありますか?
2013-08-31 Sat 21:02 | URL | みゃお #chDfx1pU[ 内容変更]
>「東から西」
 すみません。私も具体的には、池谷・関彗星(2つありますね)しか知りません。

 同夜発見の彗星を見てみると、大道・藤川彗星もそうですね。でも、これは、金井氏が前日に発見していたことが有名です。森・佐藤・藤川とか菅野・三枝・藤川とか、3人名の場合必ずしも東から西になっていませんが、関氏や藤川氏が多くの彗星を発見しているのに、お名前がトップに出ず、終わりになる傾向なのは、西日本に住んでらっしゃることがあるように推測します。西日本の人が早い反例もあるので、一般に有利不利というほどの差があるのかどうかはわかりません。
2013-09-01 Sun 08:04 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
S.Uさん>
探し方にもよるでしょうね。必ずしも地平線から昇った瞬間を捕らえるわけではなく、水平捜索か垂直捜索かの違いでもタイミングがずれます。1度目の捜天で見逃し、再捜天で捕まえる、という事もあるでしょう。自分も5年ほどみっちり眼視捜索(の真似事)してましたが、淡い天体を星図確認してるだけでもあっという間に10分くらい過ぎてしまうことも・・・

有利不利を言うなら、東西の差よりも、透明度の良い土地かどうかのほうが大きく効いてきそうです。
2013-09-01 Sun 20:24 | URL | みゃお #chDfx1pU[ 内容変更]
みゃおさん、
 そうですね。彗星の捜索は微妙な要素が多いですから、東が有利というのは統計的に現れる程度の影響にとどまると思います。あと、東にいる人は捜索開始時刻が早くなる傾向はあるでしょう。今後は、そう統計が増えることもないでしょうね。

 新星とか超新星で肉眼で直ちに見えるようなのが突然出ると、これは日暮れが早いという意味でも東が有利かもしれません。
2013-09-02 Mon 07:45 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
S.Uさん、みゃおさん

>日暮れが早いという意味でも東が有利かもしれません。

とは言っても北海道くらいの北緯になると、夏は日暮れが遅いし夜も短くむちゃくちゃ不利です。冬は天候が悪そうでこれもむちゃくちゃ不利だと思います。

>東西の差、透明度の良い土地かどうか〜

何かの役に立つとも思えませんが、どなたか発見位置や発見時刻などの分布を調べてみてはどうでしょうか(すでにどなたか調べ済みのようですけど)。
2013-09-03 Tue 16:23 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
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