東亜天文学会『天界』2010年2月号の「竹内泰子氏文集原稿募集のお知らせ」というページが強く印象に残っていた。というのは、そのページが奇しくも私が書いた鈴木壽壽子さん関連のイベントについての投稿記事と見開きになっていたからだ。このお知らせを読んで壽壽子さんの先輩格の天文少女の存在を記憶に刻むことになった。しかし、それからまもなくの2010年7月、変光星観測者のメーリングリストを通じて竹内さんの訃報(享年89歳)を受け取る事になった。
そして1年後、日本変光星研究会『変光星』No.266(2011年6月号)や日本ハーシェル協会『WEBだより』第10号 などで遺文集『星にささげる瞳 アマチュア天文家竹内泰子』の紹介と希望者への配布のお知らせがあったのでさっそく申し込んだ。間もなくして届いたのは下の写真の本。まさか546ページに及ぶこのような立派な装丁の本が届くとは思ってもいなかった。

『星にささげる瞳』 竹内泰子/竹内泰子記録会 2011年
全体は以下のような3部構成からなっている。
I部 泰子樹影:29名の方々が語る竹内泰子さんの思い出。竹内さんの人となりが朧げに浮かび上がって来るようだ。
II部 緑陰回廊:明治時代からのご家族や学生時代の写真や戦後のアマチュア天文学史を記録する写真は実に貴重だが、さらに自筆の絵画の上手さにはとにかく驚かされる。
III部 泰子覚書:創作、天体観測記録その他本書の3分の4を構成している。内容は多方面に渡っているので紹介しきれないが、竹内さんが物事をやり続けるための優れた執着力をお持ちだったこと、童謡(歌謡)の作詞、絵画、物語など幼い頃より創造性にあふれた少女だったこと、そして女性であると言うことを越えて戦後のアマチュア天文学界を牽引されて来た力だったことを知る事が出来た。そして、幼少期からの記録、文書、創作作品などがとにかくよく保存され残っていることから環境の良いところで育たれたのだろうということも想像された。
本書は非売品ということなので上記の機会を逃すと手に取ることが難しくなると思われるが、今後も天文と科学を愛する多くの若い人たちの目に触れる所にあって欲しいと思われる一冊だ。