33年の時間を巻き戻し天文少年ならぬ天文壮年へ再入門。隊員1名、200mm、65mmの望遠鏡と双眼鏡で星空を楽しんでいます!
ヒッグス粒子の先 自然はいつも宝の山
2012-07-06 Fri 00:00
120705.jpg7月4日、ヒッグス粒子発見のニュースが世界を駆け巡った。標準理論を構成する素粒子で唯一未発見だったヒッグス粒子の存在が確実になったとCERNが発表した。いわばジグソーパズルの最後の1ピースが埋まったことで、これまで指針として素粒子物理学を牽引して来た標準理論の正しさの検証がさらに進んだことになる。因に標準理論で言う素粒子とは以下を指す。
 クォーク6個   u、d、c、s、t、b
 レプトン6個   電子、μ粒子、τ粒子、3つのニュートリノνe、νμ、ντ
 ゲージ粒子5個  グルーオン(8個)、光子、W+ボソン、W-ボソン、Zボソン
 ヒッグス粒子1個 H

これらの素粒子を掻き集めても宇宙の4%を占めるに過ぎず、残り96%のいわゆるダークエネルギーやダークマターを構成する素粒子やそれを支配する法則はまだ分かっていない。また、自然界を支配する4つの力を統一的に記述する理論も未完成だ。CERNのLHCは今後もエネルギーを上げながらしばらくはヒッグス・ファクトリーとなるのだろう。大量のヒッグス粒子を調べる事で質量を生み出すヒッグス機構の理解が深まり質量間に働く重力の解明が飛躍的に進むかもしれないし、斥力を生み出すダークエネルギーが実は重力と対を成す様に統一的に記述されるのかもしれない。標準理論の拡張によって理解が深まるのか、まったく新たな理論を必要とするのか、どちらにしてもヒッグス粒子の発見で素粒子物理学は新しい段階へ入ったことは確なようだ。[写真はCERN提供]

ところで、4日のCERNからの中継は見る暇が無かったが、ヒッグス先生も会場に来ていたことにビックリ。健在だったのだ。1929年生まれ、1964年ヒッグス場を提唱(35歳)、2012年ヒッグス粒子発見(83歳)。
別窓 | 宇宙と物理ネタ | コメント:21
<<『ハーシェルの天体を見よう2012』第II期 | 霞ヶ浦天体観測隊 | 金に汚染されていないムラ人はいないのか?>>
この記事のコメント
ご紹介のような標準模型での素粒子のリストに基づいて考えると一種の感慨があります。それは、現在の標準理論が正しそうだと認知されたのは、だいたい、小林・益川理論が出てボトム・クォークまで発見された1977年ころだとすると、その時点で実験的に見つかっていたのは、クォーク5個、レプトン5個、ゲージ粒子1個でした。だいたい、2/3 が見つかった時点で、正しそうだとされて、残りの1/3が予想通りに見つかった(トップクォークは予想よりかなり重かったですが)ことになります。人間の発想で自然の発想が予想できたことは、意味があることなのでしょう。

 次に期待される超対称性粒子や拡張版の模型による別種のヒッグス粒子は、必ずあるだろう、というレベルではないので、どうなるのかわかりません。でも、既存の謎であるダークマター、CPの破れ、これに今回ヒッグス粒子も加わって、これらの特性の解明によって自然が次の素粒子の情報を与えてくれる可能性は高いのではないかと思います。

 ヒッグス先生はお元気でしたね。理論研究者のあいだではどうだったか知りませんが、お名前が有名な割にはあまり日々の動向が知られている先生ではなかったように思います。
2012-07-06 Fri 06:34 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
LHCは現在8TeVで運用されていますが予定の17TeVまでの間にどのような現象が期待されているのでしょう。ヒッグス粒子は思っていたよりも低いエネルギーで見つかってしまったのでしょうか。
2012-07-06 Fri 21:39 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
>ヒッグス粒子は思っていたよりも低いエネルギーで
 ヒッグス粒子の質量は、LHC稼働以前に、正確なことは忘れましたが、106GeV以上200GeV以下の範囲で軽い方が可能性が高いとされていたので、125GeV近辺というのは予想に近かったです。

 予定の14TeVに達しない8TeVで発見されたのはどう見るべきか、本当はもっと早く加速器のエネルギーを上げてさらに早く見つけたいと思っていたと推測します。それでも、時間がかかってしまったというほどでもないですね。LHCの本命はSUSY粒子ですので、ヒッグス粒子は早く見つかって当然という意気込みだったと思います。


2012-07-07 Sat 16:26 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
17TeVでなく14TeVでしたね。

>LHCの本命はSUSY粒子

でも質量がそうとう大きいそうではないですか。14TeVまでで見つかるかな?徴候が見えた辺りで打ち止めになりそう。ILC計画もありますが、政治的な制約にしろ工学的な制約にしろ、大型加速器製造は次第に難しくなりますね。
2012-07-07 Sat 23:14 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
>SUSY粒子
SUSY粒子は複数種類あるし、質量もわからないので、いろいろな発見現象のパターンが考えられます。運が良ければとても目立つパターンということもありえます。

>政治的な制約にしろ工学的な制約にしろ、大型加速器製造は次第に難しくなりますね。

 大型加速器は、途中から生じたいろんな研究課題に対応できる利点があるので、今後は、多目的化、利用研究者の拡大をはかることによって、研究費を広く集めるようにする作戦に出るものと思います。
2012-07-08 Sun 17:48 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
>SUSY粒子は複数種類あるし、質量もわからないので、いろいろな発見現象のパターンが考えられます。

これまでのエネルギーレベルでの崩壊現象の中にすでに写っていたけれど見落としている、などいう可能性は無いのですか?

>多目的化、利用研究者の拡大をはかる

LHCはもちろんですが、KEKにしても国際共同作業ですものね。
2012-07-08 Sun 18:12 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
>崩壊現象の中にすでに写っていたけれど見落としている
 どうでしょうねぇ。複数の実験で確認しているので、これまで発表されている種類の探索については、ミスで見逃されていることはないと思いますが、出方にバリエーションがあるので、完全に探されていないパターンもあるかもしれません。そういうのも、おいおい指摘されれば再解析されると思います。
 LHCやILCは準備研究が網羅的になされているので、見つかるべきものがみのがされることはないでしょう。
2012-07-09 Mon 06:51 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
>完全に探されていないパターンもあるかもしれません。

世界中の物理学者の鋭い眼に曝されていますから網を張って待っているパターンでの見落としは無さそうですね。
2012-07-09 Mon 23:47 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
>網を張って待っているパターン

 見つけにくいパターンの見つけ方の工夫までご提案いただくと、それが当たった場合たいへんな貢献になります。

 ところで、今日、KEKでJ-PARC復旧後のニュートリノビーム実験T2Kの結果(途中経過?)を報告するセミナーがありました。ミューニュートリノが電子ニュートリノに化けた事象が3.2σの有意性で検出されたということでした。
2012-07-10 Tue 19:07 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
>見つけにくいパターンの見つけ方の工夫までご提案

世界中のプロの素粒子物理学者の厳しいフィルターをすり抜けた中からサルベージするとなると、ど素人じゃないと思いつかない様な突飛な提案が必要でしょうね。

>T2K

ニュートリノ振動の証拠が着々と集って来ているようですね。3.2σというのは99%以上の確かさという意味ですよね。もっとも精度はもっともっと上げなくてはならないのでしょうが。ニュートリノ振動の検出は例の超高速ニュートリノで一躍名を馳せたOPERA実験と競っている形なのでしょうか。あちらはミューニュートリノがタウニュートリノへ変化するのを検出しているらしいですが、その他に電子ニュートリノとタウニュートリノ間の変化を追っている実験もあるということでしょうか。
2012-07-11 Wed 18:20 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
>OPERA実験と競っている形なのでしょうか~その他に電子ニュートリノとタウニュートリノ間の変化を追っている実験もある
 
 これについては、セミナーで似たような質問が出ました。
 化けたあとのニュートリノの種別を識別して検出しているのは、現状ではこの2実験だけであるとのことです。

 電子ニュートリノとタウニュートリノ間の変化を捕らえるには、高エネルギーの電子ニュートリノが必要なので、技術的にかなり難易度が増します。また、確認するに越したことはありませんが、3種のニュートリノの範囲で振動のパラメータを決定するにはさしあたって必要のない測定だと思います(νeの行き先の引いた残りですから)
2012-07-11 Wed 19:48 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
>セミナーで似たような質問が出ました。

ほほう、私の疑問もまんざら的外れではないということか。かつて物理学から脱落した私ですが、S.Uさんのおかげで物理学の最先端を間近で観望できる特等席に座らせてもらっていることに感謝しています。おまけに同時通訳付きみたいなもんですし。

>さしあたって必要のない測定だと思います(νeの行き先の引いた残りですから)

独立したパラメータではない三つ巴の関係なので必要ないかもなと、何となくそんな気がしました。
2012-07-11 Wed 20:30 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
>物理学の最先端を間近で観望できる特等席
 そう言っていただけるのはうれしいですが、私のほうからするとかすてんさんのご質問はセミプロ~プロと変わらないので、一般向け広報活動の参考にはまったくなりません(笑)。
2012-07-12 Thu 07:02 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
>質問はセミプロ~プロと変わらない

自分で計算ができないところに渡る事の出来ない大きな河があります。

>一般向け広報活動

あまりに高度になって一般の理解レベルから乖離してしまった科学技術の世界を分かり易く解説して国民に広く理解してもらう活動は大切な業務だと思います。大きな組織ですと専門の部署に任せておけとなりがちだと思いますが、研究者でありながらそういう感覚も持っているS.Uさんは自覚的な研究者の鑑です。
2012-07-12 Thu 20:49 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
>計算
 そうですね。計算にもピンからキリまでありますが、誤差まで含めて定量的評価をするというのが理工学ではプロの要件かもしれません。天体観測を報告されるようなアマチュアはこの条件をクリアしています。

>専門の部署に任せておけ
 この部分は研究者によって考え方がまったく違うと思いますし、その是非も一概には問えないかもしれません。というのは、そういう考えの人でも、自分の研究していることを一般向けに宣伝することはけっこう懸命にしているからです。
 私は「鑑」と言っていただけるほどのことはないのですが、年齢、分野を問わず広い「科学オタク」の方々に(私もその一人なので)少しでも納得し喜んでいただければと思っています。
2012-07-13 Fri 07:42 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
>誤差まで含めて定量的評価をするというのが理工学ではプロの要件かもしれません

そうですね、一部は技術ですが一部はセンスですね。

>広い「科学オタク」の方々に

そうか、一般人以外に「科学オタク」という一群が確かに存在しますね。って、私も?
2012-07-13 Fri 18:04 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
>一部はセンス
 そうですね。経験による感覚というのもあります。

>「科学オタク」
 そう。貴方も私も科学の歴史を支えてきた「科学オタク」。これから盛り上げていきますよ。
2012-07-13 Fri 22:21 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
>センス

センスは能力の大きな要素だと思います。経験による感覚は経験の長さに比例して鋭くなりますが、比例係数に大きな違いがあります。これはセンスに依存するのだと思います。

>「科学オタク」

その裾野が如何に広いかが頂上の高さを決めるのだと思うと、私のアホな妄想にS.Uさんがつき合ってくれていることにも幾ばくかの意義が見いだせますね。
2012-07-14 Sat 16:51 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
ごく少数の大天才は別にしても、宇宙の深遠さに比べれば人間の考えることにそんな大きな差はないでしょう。私が研究していることは、当分は世の中のお役に立ちそうにないので(未来についてはまったく不明です)、現在においては、せめて科学好きに生まれついた方々といっしょに自然から学んだことを楽しめればよいと思っております。
2012-07-15 Sun 07:44 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
>科学好きに生まれついた方々といっしょに自然から学んだことを楽しめればよいと思っております

人類への幾ばくかの貢献を祝して乾杯!
2012-07-15 Sun 21:18 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
>乾杯
 幾ばくかですが、乾杯!
2012-07-15 Sun 22:30 | URL | S.U #MQFp2i1U[ 内容変更]
コメントの投稿
 

管理者だけに閲覧
 

| 霞ヶ浦天体観測隊 |

FC2カウンター