33年の時間を巻き戻し天文少年ならぬ天文壮年へ再入門。隊員1名、200mm、65mmの望遠鏡と双眼鏡で星空を楽しんでいます!
大田原市ふれあいの丘天文館 理想実現に向けた取り組み
2010-09-13 Mon 00:00
先日訪問した、大田原市ふれあいの丘に併設されている天文館についての紹介。『月刊天文ガイド』2008年7月号に詳しい記事が掲載されているので、そちらも併せてご覧いただきたい。

1009083.jpg2008年4月にオープンした大田原市ふれあいの丘天文館は同市の生涯学習施設としての位置づけが明確なことに加え、健常者・障害者を問わず平等に享受できることを確固たる基本理念として打ち出している。このためユニヴァーサルデザイン化を基本コンセプトにしてバリアフリーを目指しているユニークな天文施設になっている。

1009084.jpg1階から2階観測室へは階段の他にエレベーターも設置されている。各部屋の出入り口に段差が無くスロープや点字ブロックが配置され、足下にコード類が一切無いなど、移動時の安全性に配慮されている。また、望遠鏡の接眼部がデュアルワンダーアイになっているのは、観望会時に2倍の処理能力があるというだけでなく、車椅子での観望のしやすさ、身長の違いによる覗きにくさの解消を助けている。さらに、バランスウェイトの無いフォーク式架台にしたことで望遠鏡遷移中の危険を少なくしている。他の天体観測施設をご存知の方ならばその違いは一目瞭然だろう。この施設全体をコーディネートされた方の並々ならぬ情熱が伝わってくる。

7mドームに収まるのは三鷹光器の口径65cm反射望遠鏡で、反射鏡は池谷鏡だそうだ。副望遠鏡、野外観望鏡にはタカハシのTOA-150、その他の補助望遠鏡にも垂涎の的になるような機材がふんだんに取り入れられている。

1009085.jpgこの施設では、上記のように移動や設備使用におけるハードウェア上のバリアフリーに止まらず、ソフトウェアにおけるバリアフリーの試みも行われている。天文と言うと視覚に頼る部分が大きいが、ここでは視覚障害者にも理解しやすくするために「触れる天文資料」をオリジナルに開発している。その一つがカプセルペーパーを利用した触れる天体写真で、熱処理によって表面に微妙な凸凹を作り星の配列や星座絵を表現して理解を助けている[左写真]。

大田原市ふれあいの丘天文館は年末年始の5日間以外は年中無休で、開館時間は午前9:30から午後9:30まで。各1時間の観望会を毎日8回開催している。星が見たくなったらいつでも見に行けると言っても過言でない充実ぶりだ。ただし、市内の小中学校が団体で利用している場合もあるので事前に確認と申し込みが必要だそうだ。
平成22年度天体観望プログラム

私は2夜訪問したが、職員の方が情熱を持って運営されているのをひしひしと感じた。しかし、個人の情熱だけでは施設を永続的、円滑に運営して行けない。そのためこの施設では、職員を補助するボランティア養成のプログラムも用意されていて、すでに数十人のボランティアスタッフが育っていると聞いた。将来への構想もいろいろとあり、大田原の星見の拠点としてますます発展していくに違いない。

理想の実現に向けて多くのエネルギーと多くの願いを形にしたこうした施設が、市の事業仕分け等で、規模縮小、身売り、廃止などの憂き目に遭うことなく、将来に渡って健全に運営されていくことを願って止まない。

[参考]
中村正之「触覚型天文資料形態の標準化に関する研究 -だれにも優しい天文館の運営に向けて-」 2009年3月、常磐大学コミュニティ振興学部『コミュニティ振興研究』第9号、pp.47-60。
榎本司「大田原市ふれあいの丘天文館オープン」『月刊天文ガイド』2008年7月号、誠文堂新光社、pp.92-95。
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この記事のコメント
こんないい施設で星を堪能されておいでたのですね(^^)

>7mドームに収まるのは三鷹光器の口径65cm反射望遠鏡で、反射鏡は池谷鏡だそうだ。副望遠鏡、野外観望鏡にはタカハシのTOA-150、その他の補助望遠鏡にも垂涎の的になるような機材がふんだんに取り入れられている

涎が垂れています。。。(^^)

それでも、凄いのはハードばかりでなくってソフト面でも努力されておられるようですね。
こういった施設・・・生き延びて欲しいな。
2010-09-13 Mon 22:21 | URL | 中井 健二 #7w5mtEUg[ 内容変更]
二晩ともほぼ皆曇に近く、堪能とまでは行きませんでしたが、全く見られない可能性もあったのでまずまずでした。

ただ上ものを作るだけでなく、理念があるところに好感が持てます。時間を経てもこの精神が貫かれて行って欲しいです。
2010-09-14 Tue 14:23 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
なるほど、天候には恵まれなかったのですね(過去記事に書いてあるのを忘れていました)。
生き残るためには、ポリシーも必要ですね。人間の精神というソフト面ですね。
2010-09-14 Tue 20:32 | URL | 中井 健二 #7w5mtEUg[ 内容変更]
>生き残るためには、ポリシーも必要ですね。人間の精神というソフト面ですね。

そう思うのです。人が代わっても理念が継代されていくことが大切なのではないかと。
2010-09-14 Tue 20:49 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
お越しいただきありがとうございました
天文館をご紹介いただき、ありがとうございます。基本コンセプトを作ったものです。
私としては、大田原市ふれあいの丘天文館を、星仲間の公民館にしたいのです。将来のある子供たちに私たち大人が熱く語って聞かせながら本物の星を見てもらいたいのです。そんな交流のできる施設を目指しています。
ちょっと遠いですが、車で3時間、結構きれいな星空を提供できますので、ぜひ皆さんお越しください。
2010-09-15 Wed 10:56 | URL | masa #-[ 内容変更]
masaさん、こんにちは。

いろいろな可能性を持った施設だと感じました。

明日の記事のネタとも関連するのですが、コアな天文ファンにならなくても、多くの人たちが生活の中に星との関わりを持ち続けてもらえれば良いような気がします。大田原の子供たちはそんな素質を刷り込まれて育って行くのですね。

また、この天文館はたとえ星が見えなくても別の方法で星への興味を繋いでくれるソフトウェアが備わっているところも良いです。せっかく星に興味を持ってくれた人を、星が見えないからと追い返してしまうのは勿体ないことですから。

それから、宿泊施設へのアンケートにも書いておきましたが、街灯の上向光束が無ければベランダからも良好な星空を楽しめると思います。ふれあいの丘全体で星の見える施設になることを期待します。
2010-09-15 Wed 11:42 | URL | かすてん #MLEHLkZk[ 内容変更]
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