
『利根川は東京湾へ戻りたがる』 青木更吉著
さきたま出版会 2022年 1800円
青木更吉先生から新著をいただいた。封を開けた最初の感想は、出版社が見つかってよかったというものだった。崙書房が解散した後の出版社探しにご苦労されているお話を昨年春にお聞きし、その後どうなっているかと時々気になっていたので、まずは安心した。今回は利根川をテーマにした内容なので、埼玉県の出版社との相性も良かったと思われる。砂丘めぐりから始まり、利根川水系を辿っていく中で、大きな課題である水害の歴史に行き当たる。対岸の堤防が決壊して万歳をする話が書かれているが、度重なる小貝川の決壊による水没と対岸の決壊の両方を体験した利根町の農家の知人の話を聞いたことがあったので、この部分は大変現実味を感じた。これら水害の発端は利根川東遷ということになるが、その歴史もそう単純なものではなかったことを初めて知った。本書で紹介される地域は関東中世史の重要舞台でもあり、Googlemapで地形を確認しながら読めば興味は縦横無尽に広がっていく。