33年の時間を巻き戻し天文少年ならぬ天文壮年へ再入門。隊員1名、200mm、65mmの望遠鏡と双眼鏡で星空を楽しんでいます!
北尾民俗学の真髄  『日本の星名事典』
2018-06-14 Thu 00:00
1806071.jpg『日本の星名事典』 北尾浩一著 原書房 3800円 2018年

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 北尾浩一さんが星の伝承の取材を始められたのは1978年だと以前どこかに書かれていた。20世紀末まで各地に残されて来た星の伝承を何としてでも21世紀へ伝えなくてはという思いだったらしい。456頁の大著の完成によってかなりのところまで達成できたのではないかと思いたいが、本書刊行直前のお知らせに「私の力でとてもできないページ数にチャレンジしてしまったのですが・・・それでも、まだ書きたかったことがある状況です」とあり、ご本人の中ではまだまだ完成には至っていないことが知れた。日本各地を歩き、その場で行き合った人との会話の中から話を聞き出すというのが北尾さんのスタイルなので、そもそも取材の終了とか完結はありえないのかもしれない。
 野尻抱影氏の『日本の星』『日本星名辞典』を読んだことの無い私には、比較の中で特徴を述べることはできないが、取り上げられている星名の多さに加えて、一つ一つの星名に纏わるエピソードの豊かさが本書の大きな特徴だと感じる。書名は「事典」となっているが、これは明らかに読む本である。読んで、その星の和名を使ってきた人たちがどういう地域でどういう生活をしてきたのかを垣間見る、そういうための本だと言える。Amazonカスタマーレビューの中でも「膨大な参考文献」が評価されているが、実はあそこに全く掲載されていない東亜天文学会『天界』に今現在176回長期連載されている「天文民俗学試論」の基礎になるフィールドワークでの採集資料も漏らすことのできない厖大な北尾データベースだと思う。ネット版の「天文民俗学試論(1)」(東亜天文学会民俗課ホームページ)は冒頭「星と暮らした人びとの言葉の力はものすごい。そこには、自然認識の力、生きる力、的確な判断力…と、私たちが失ってしまったすばらしいものがいっぱいある。だからこそ、星の伝承を、今では役に立たないもの、非科学的なものとして捉えるのではなく、あるいは、ふるさと的なもの、ロマンを感じさせてくれるものとして捉える段階にとどまるのではなく、21世紀、人間の生き方を考えるときに大きな示唆となるものとして捉えていきたい。」と書き始められている。21世紀へも引き継ぎたいという願いを貫く、北尾民俗学の視点・真髄がここにある。
 ご病気と戦いながら取材をされている北尾さんを遠くからハラハラする思いで見ていた身には、とにもかくにも本書が刊行され一区切りになったことに安堵している。一つ残念だったのは、各星名が日本のどこで採集されたのかが分かる地名索引がなかったことだ。「まだ書きたかったこと」があるそうなので、この私の希望も加えていただき、将来改訂増補版として実現されることを期待したい。
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