1ヶ月前の5月11日はリチャード・P・ファインマンの誕生日で100周年だった。そのことは知らずにファインマンの本を読んだところなのでご紹介する。

『ファインマン語録』 ミシェル・ファインマン編 大貫昌子訳
岩波書店 3200円 2016年
これは、リチャード・P・ファインマンの娘ミシェル・ファインマンが集めたファインマン語録。アマゾンのレビューには2つの正反対の意見が載っていて興味深い。
・「言葉というものは,それがどういう状況のもとで語られたのかということが重要なのだ.新聞の切り抜きみたいにただファインマンの書いた断片を,脈絡もなく,時間順序も無視して,ただ羅列してもしょうがないのではないか.ファインマンの生涯についてかなり知っている読者であっても,何のことを言っているのかなと考えさせられるところが多い.」
もう一つは、
・「この本を手に取る方は、おそらくですが既にファインマンさんの他の本を読みつくしていると思いますので、語録の形式が羅列であろうともついていけますし、それほど欠陥とは言えないでしょう(わざわざタイトルに「語録」と書いてありますし)。人間的にファインマンさんがどのような人であったのか、具体的に深く知るうえで、無くてはならない本だと言えます。」
少なくとも自分は、どういう状況で語られた言葉なのかを知るために、新聞の切り抜きを含めた膨大な原典を全部集めたいと思わないし、語録本からファインマンさんの物理学を学ぼうなどとも考えない。おまけに、ファインマンさんの他の本を読みつくしてるというわけでも無いが、自分は本書に価値を見出せる側の人間だということだけは確信できる。
語録のいくつかを引用しておく。
・理論物理学で最も重要で、最もでかい道具はくずかごだよ。
・このとてつもなくすばらしい宇宙、気が遠くなるほどの遠大な空間と時間、そして多種多様の生きものたち、数知れぬ惑星、それぞれ運動しているさまざま原子たち、これほどまでに複雑なものごとが、単に神が人間の善悪の闘いを見守る舞台に過ぎないという宗教の観点を、ぼくは信じられそうにない。この舞台はそんなけちなドラマには雄大すぎる。
・ぼくらは自らの誤りを、できる限り早く証明しようとしていることになります。進歩するにはそれしか方法が無いからです。
・それにしても試すべき法則があること自体、奇蹟のようなものではありませんか。重力の逆二乗の法則のようなルールを発見できるのは、たしかに一種の奇蹟としか言いようがありません。
・もっと気の利く機械を開発しようという研究が、盛んに行われています。(中略)それは人工知能という名で呼ばれていますが、ぼくはこの名前がどうも好きになれません。おそらくは知能の低い機械のほうが知能の高い機械よりも、うまく働くのではないでしょうか。
・次の世代のために自由を、それも疑う自由、開発の自由、ものごとをやってのける新しい方法を探求する冒険の自由、そして問題解決の自由を望んでやみません。
最後に、ファインマンさんの魅力を的確に表しているコーネル大学のマーミンの言葉を紹介しておく(トニー・ヘイ編『ファンイン万計算機科学』中で引用)。
・彼の講演なら、市の排水システムについてだろうが何だろうが、何もかも放り出して聞きに行くよ。