2013-07-21 Sun 00:00
M57中心星「13等ニセモノ説」についての続き。
これまでの経過:(1)リング星雲M57の中心星と「13等ニセモノ説」 (2)で、結局M57の中心星はどれなのよ? 手元にある書籍から参考になりそうなものをいくつかピックアップしてみた。 [1]R.バーナム Jr.著『星百科大事典』日本語版(原書は1978年出版)。 M57の中心星の光度について次の様に書かれている。 「ドイツのF.フォン・ハーンが、1800年頃、この星雲の中心星を報告した最初の観測者らしい。リック天文台報告集第13巻は、中心星を実視等級15.4等とし、W.リラーは実視等級を14.2等、一方、L.バーマンは写真等級を14.4等と報告している。しかしながら、この星は変光星ではないかという疑いもある。」 バーナム Jr.氏は中心星が14等級から16等級の変光星で光度がはっきりしないことは書いているが、ここには「13等ニセモノ説」はまったく現れない。もしも彼が「13等ニセモノ説」を知っていたならば、本書ほどの蘊蓄本でそれを語らないはずはないように思う。 [2]藤井旭著『星雲星団ガイドブック』(1971年出版)。 (の)さんからM57のページのコピーを頂いた。 「リングの中には二つの星があります。一つは13等星ですから10cmから見えますが、中心星の方は眼視光度15.5等、写真光度は14.7等で、小口径ではまったく見ることができません。」 とあるが、リングを拡大した写真は掲載されていない。 [3]藤井旭著『全天 星雲星団ガイドブック』(1978年初版)。 [2]の後継書。S.Uさんからいただいた情報によると、文章は上記とまったく同じだが、103aEで撮影された写真が掲載されていて、中心の星が13等台に見えないこともないらしい。 [4]S.J.オメーラ著『メシエ天体カタログ』日本語版(原書は1998年出版)。 メシエ天体のスケッチアルバムおよび参考書として定評のある1冊で、以下のように書かれている。 「ガスの輪の中で一番明るい星は13等で輝いており、中心からちょうど1′東、一番外側の縁からは20″のところに位置している。また、14等星がリング星雲の南西側の端のちょうど内側に位置しており、中心星とまちがわれやすい。たいていの恒星カタログでは、青い矮小な中心星は15等星であると記載されている。しかし、その明るさについては議論がかわされている。『Catalogue of the Central Stars of True and Possible Planetary Nebulae』(アッカー、グリエザス、ストラスブール天文台、1982年)にはおよそ80年間の測光データが記載されており、中心星の明るさは13等から15等にわたって変化している。」 ![]() S.Uさんによると、英語以外のいくつかの主要言語のWikiを見る限り「13等ニセモノ説」は見当たらないとのことなので、これは日本限定の都市伝説と考えて良さそうだ。 そこで一つの仮説を立ててみた。 藤井旭著『星雲星団ガイドブック』および『全天 星雲星団ガイドブック』は当時多くのアマチュア天文家が手に取ったと思われる大ヒット本であることと、1970年代当時、15等級は誰もが写せる時代では無かったため自力で確認できた人は少なかったことを考え合わせると、その記述内容が錯誤を含んだまま多くの人の記憶に残ったことは想像に難くない。それから7年後に後継書を開いた人は103aEによって13等級に膨らんだ中心星の写真を見て「これが例の中心にあるけど中心星でない星なのだ」とさらに錯誤が強化されたのではないだろうか。 さて、「13等ニセモノ説」の歴史は上記の仮説でだいたい説明できるとして、「リングの中には二つの星があります。一つは13等星ですから10cmから見えます」という部分の謎はまだ解けていない、現在リングの中に10cmで見える星など無いのだから。とは言え、中心星変光星説もあるのでたまたま13等に増光していたことも否定はできない。これ以上は著者にお聞きするしかないのかもしれない。 本書以前、そして本書以降の星雲星団の解説本にも似た様なことが書かれているのだろうか、お手元にある方は一度お確かめいただきたい。 それにしても、少なく見積もっても42年もの間この誤解が都市伝説のように生き残っていたと言うことに改めて驚きを感じる。ともあれ、世界の中で日本人だけが間違っているのでは恥ずかしい。今後は速やかに修正されて行くことを期待したい。 |
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